ディ・スリマン、ヴァージル・アブロー、アレッサンドロ・ミケーレ…。彼らは消費者との距離を縮めることで忠実な信者を生み出し、現代においてカルト的存在である。コングロマリットが主流となる前の時代のデザイナーとの存在の違いは、一体何なのか? フランス版「エル」のジャーナリスト、ナタリー・ドリボが、現代ファッションを人類学的視点から読み解く。
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2018年6月21日、パリのパレ・ロワイヤルの庭園。ヴィージル・アブローによる「ルイ・ヴィトン」のファーストコレクションショーを終えたばかりだ。キャットウォークで目に涙を浮かべ、手を合わせてお辞儀をする、アメリカ出身の腰の低い若いクリエイターに観客は激しい拍手を送った。
彼は信者とのコミュニケーションの方法としてSNSを積極的に使い、コミュニティは創業以来成長を続け、インスタグラムには約370万人のフォロワーをもつ。2013年に創設された自身のレーベル、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー™」とファッションハウスの「ルイ・ヴィトン」は、ヴァージルのシーダーシップの下で繁栄を続け、今日、新しい時代の幕開けを迎えた。それは、ファッションデザイナーを時代の教祖として掲げ、信者によって崇拝され、SNSによって過度に崇められるといった時代。
「彼らは魔法の名声によって神のように扱われる、視覚化できないものを授かっている」と語るのは、人類学者で多くの著書を出版するギウリア・メンシチエリ。名声はときに彼らが勤めているファッションハウスをも超えていくことがあるが、名声だけで商品を購入する信者は少なくない。「売り上げこそが契約だ!」というファッションハウスが出す条件に、非常によく適応している手段なのだ。
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一方「セリーヌ」では、エディ・スリマンの登場により彼の信者は大歓喜した。「サンローラン」を去って2年後、多くの人が彼が戻ってくることを切望していた。そして彼が「セリーヌ」に入ってからの最初の仕事は、ブランドロゴを一新することだった。アクセント記号(É)というフランス語の特徴的な要素を排除して、新しいスリマン時代を迎えようという姿勢の表れだった。
前任フィービー・ファイロの信者はこれにすぐ反応し、インターネット上では若干の論争を巻き起こす事件となり、それぞれの信者は分裂した。しかし、この“動揺”は現代におけるデザイナーの力の強さを誇らかに示す結果となった。パワーバランスが、デザイナーとファッションハウスの間で逆転したのだ。「波を起こさずして、現状を変革することはできない。議論が起こらなければ、それは意見がないということだ」と、エディ・スリマンは、2018年11月にフランスの新聞「Le Figaro」の取材で語っていた。